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乳癌手術の2年後も、半数の患者が疼痛に悩む


乳癌手術後の患者の47%が持続的な疼痛を、58%が知覚障害を経験しており、疼痛を訴える患者の約半数が中程度から重度の痛みに苦しんでいることが報告されました(JAMA誌2009年11月11日号)。

この解析のなかでは、

  1. 年齢が若いこと(乳房温存手術も多い)
  2. 術後放射線は痛みに相関
  3. 腋窩リンパ節郭清は知覚障害から痛みに発展

ということが注目されるところです。術後の慢性疼痛は乳がん患者さんのQOLに大きな影響を与えますので、疼痛の機序の解明や対処法が必要とされています。

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→Danish Breast Cancer Cooperative Group(DBCG)が管理しているデータベースを用いて条件を満たす患者を選出し、質問票を送付する調査研究を行うことにした。

DBCGのデータベースは、詳細な臨床データ、組織病理学的分析結果、適用された治療、臨床転帰などの情報を前向きに登録している。その中から、片側乳房 の原発性乳癌と診断され、05年1月1日から06年12月31日に手術と術後補助療法を受けた18〜70歳の女性を選出した。標準的な治療以外が適用された患者、乳房再建を受けた患者、再発した、または新たな乳癌もしくは別の癌を発症した患者、死亡した患者などを除いた3754人を対象とし、2008年1 月から4月に質問票を送付した。

質問項目の概要は、以下の通り。

痛みの場所は、乳房、腋窩、腕、治療を受けた乳房の側の半身のいずれかから選択。

痛みの程度は、0〜10ポイントで記入するよう依頼(0は無痛、10は想像しうる最悪の痛みとし、1〜3は軽度、4〜7は中程度、8〜10は重度に分類)。

痛みの頻度は、毎日またはほぼ毎日、週に1〜3日、それより少ない、のいずれかから選択。

さらに、手術部位の痛みによる受診、鎮痛薬の使用、それ以外の疼痛治療の利用、乳癌とは無関係な場所の痛みなどについても尋ねた。

アウトカム評価指標は、持続性疼痛の有病率、痛む場所、痛みの重症度、知覚障害の有病率などに設定。加えて、年齢、手術手技、化学療法、放射線治療などの中から、持続性疼痛と知覚障害の危険因子を探した。

質問票を送付した患者の87%に当たる3253人から回答を得た。調査時点で手術から平均26カ月が経過していた。

患者に適用された治療は、(1)乳房温存療法(センチネルリンパ節生検=SLNDまたは腋窩リンパ節郭清=ALNDを実施)後に放射線治療と化学療法のいずれかまたは両方、(2)乳房切除術(SLNDまたはALNDを実施)のみ、(3)乳房切除(SLNDまたはALND)後に放射線治療と化学療法のいずれ かまたは両方―の12通りに分類できた。計1543人(47%)が1カ所以上の痛みを訴えた。うち201人(13%)は重度の疼痛、595人(39%)は中程度の疼痛、733人(48%)は軽度の疼痛だった。痛みの重症度に関する回答がなかった患者が14人(1%)いた。

重度の疼痛がある女性の77%は、毎日痛みを感じていた。軽度疼痛群では、痛みが毎日あると回答した女性は36%だった。

疼痛は1カ所のみの女性が278人(18%)、2カ所は435人(28%)、3カ所は429人(28%)、4カ所は400人(26%)。

最も多くの女性が痛みを訴えた場所は、乳房(1331人、86%)、2番目が腋窩(975人、63%)、3番目が腕(872人、57%)だった。

痛みを訴えた患者のうち、306人(20%)は過去3カ月間に疼痛治療を求めて受診していた。439人(28%)は手術部位の痛みを抑えるために鎮痛薬を使用し、397人(26%)はそれ以外の疼痛治療を受けていた(マッサージ、理学療法など)。

持続性疼痛に関わることが明らかになった因子の第一は、年齢が若いことだった(60〜69歳と比較した18〜39歳のグループのオッズ比は2.62、95%信頼区間1.84-3.73)。特に、乳房温存療法を受けた18〜39歳の患者でリスクは高かった(調整オッズ比3.62、2.25-5.82、p<0.001)。

乳房切除を受けた患者では、疼痛リスクが最も高かったのは40〜49歳だった(60〜69歳と比較したオッズ比は1.72、1.21-2.45)。

術後放射線療法(オッズ比1.50、1.08-2.07、p=0.03)は痛みの危険因子だった。一方で、術後の化学療法は有意な影響を及ぼしていなかった(オッズ比1.01、0.85-1.21)。

SLNDのみが行われたケースに比べ、ALNDが適用された患者で、疼痛リスクは有意に高かった(1.77、1.43-2.19、p<0.001)。ALND適用群では中程度から重度の疼痛のリスクがSLNDより高かった(1.39、1.03-1.88)。

次に、知覚障害あり、と回答した女性は計1882人(58%)。知覚障害が存在する場所として最も多くの女性が挙げたのは脇窩(1239人、66%)で、2番目は腕(986人、52%)、3番目は乳房(816人、43%)だった。

知覚障害の危険因子も年齢が若いことで、60〜69歳と比較した18〜39歳の女性のオッズ比は5.09(3.29-7.94)だった。乳房温存療法を受 けた18〜39歳の調整オッズ比は5.00(2.87-8.69)、乳房切除群でも18〜39歳の調整オッズ比は6.06(2.07-17.7)で、ほか の年齢群に比べて高かった。

また、ALNDの適用も知覚障害リスクを高めていた(SLNDと比較したオッズ比は4.97、3.92-6.30)。

知覚障害がある女性のうち、1204人(65%)は持続性疼痛にも悩まされていた。一方、知覚障害のない女性で疼痛を訴えたのは292人(23%)で、知覚障害は持続性疼痛リスク上昇と関係することが示された。


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