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乳がんホルモン治療薬タモキシフェンと抗うつ薬パロキセチンの併用で死亡リスクが上昇


乳癌患者さんの最大25%がうつを経験するといわれています。うつ治療を目的として、また、タモキシフェン使用による火照りを和らげるためなどに抗うつ薬が投与されます。乳がんの患者さんがうつ状態になった場合、臨床では不用意に抗うつ薬である選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を投与しています。しかし、タモキシフェンの投与を受けている乳癌患者さんにパロキセチンを併用すると、乳癌死亡リスクと全死因死亡リスクが有意に上昇することが明らかになりました(BMJ誌電子版2010年2月8日)。

タモキシフェンはプロドラッグで、肝臓の薬物代謝酵素であるチトクロームP450によって代謝されて活性を得ます。この過程で最も重要な役割を果たすのがチトクロームP450 2D6(CYP2D6)で、CYP2D6を阻害する薬剤を併用した場合、タモキシフェンの効果は小さくなります。

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、CYP2D6を様々なレベルで阻害すること、中でもパロキセチンはCYP2D6に対する強力かつ不可逆的な阻害薬であることが明らかになっています。そして、今回このことを確認するためにカナダSunnybrook Health Sciences CentreのCatherine M Kelly氏らは、集団ベースのコホート研究を行い、タモキシフェンとSSRIの併用が乳癌患者の転帰に及ぼす影響を調べ、タモキシフェンの投与を受けている乳癌患者さんにパロキセチンを併用すると、乳癌死亡リスクと全死因死亡リスクが有意に上昇することが確認されました。

薬剤の相互作用を予測することは非常に大切です。しかし、膨大な数の医薬品を覚えるだけでなく、相互作用までを考慮に入れるとなると一臨床医の能力だけではいかんともしがたいものがあります。しかし、医薬品を投与する以上、責任は製薬会社でなく現場の医師であることは医師自身がもっと自覚をもつことが必要です。

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→ カナダのオンタリオ州に住む66歳以上の乳癌患者で、1993〜2005年に初回のタモキシフェン治療を開始しており、治療期間中にSSRIを1剤(パロ キセチン、フルオキセチン、セルトラリン、シタロプラム、フルボキサミン)処方されていた人々を分析対象とした。また、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)のベンラファキシンを高用量使用していた患者も対象に加えた。途中でSSRIを別のSSRIに変更していた患者は除外した。

乳癌死亡、全死因死亡を2007年12月末まで追跡した。

主要アウトカム評価指標は、タモキシフェンを用いた治療が完了してから追跡終了までの乳癌による死亡、2次エンドポイントは全死因死亡に設定。Cox比例 ハザードモデルを用いて、SSRI併用期間(タモキシフェン治療期間に占める併用期間の割合で示した)と死亡リスクの関係を分析した。併用期間の割合は連 続変数であるため、それぞれの薬剤を使用していた患者グループ内で回帰分析を行いハザード比を推定した。交絡因子候補として、年齢、タモキシフェン使用開 始年、タモキシフェンの投与期間、診断からタモキシフェン使用開始までの期間、社会経済的状態、タモキシフェン治療終了前1年間の併存疾患、ほかの CYP2D6阻害薬の使用などで調整した。2430人の女性(年齢の中央値は74歳)が、タモキシフェンと共に1剤のSSRIを使用していた。

83.3%の患者が乳癌診断から1年以内にタモキシフェン治療を開始していた。投与期間の中央値は4.0年だった。

その間に投与されていたSSRIのうち、最も多かったのはパロキセチンで、25.9%(630人)の患者が併用。2番目がセルトラリンで22.3% (541人)、以下、シタロプラム19.2%(467人)、ベンラファキシン15.0%(365人)、フルオキセチン10.4%(253人)、フルボキサ ミン7.2%(174人)となった。

平均2.38年の追跡期間中に374人(15.4%)が乳癌で死亡。全死因死亡は1074人(44.2%)だった。

パロキセチン使用者の乳癌死亡リスクは高かった。タモキシフェン使用期間の25%に相当する期間にパロキセチンを併用していた患者では、乳癌死亡の調整ハ ザード比は1.24(95%信頼区間1.08-1.42)となった。50%の期間で併用していた患者群では1.54(1.17-2.03)、75%の期間 併用していた患者では1.91(1.26-2.89)だった(すべての比較においてp<0.05)。

一方、パロキセチン以外のSSRIには有意なリスク上昇は認められなかった。SNRIのベンラファキシンについては、併用期間の割合が増えると乳癌死亡リスクが低減する傾向が見られたが、統計学的に有意な結果にはならなかった。

全死因死亡についても同様で、パロキセチン併用期間がタモキシフェン使用期間の25%だった患者の調整ハザード比は1.13(1.05-1.23)、50%では1.28(1.11-1.50)、75%では1.46(1.15-1.84)だった。

やはり、ほかのSSRIとタモキシフェンの併用は全死因死亡リスクを上昇させていなかった。

次に、パロキセチン併用の絶対リスクを求めた。パロキセチンの平均併用期間はタモキシフェン治療期間の41%であり、このレベルの併用は、タモキシフェン 投与完了後の5年間に19.7人(95%信頼区間12.5人-46.3人)に1人の割合で乳癌死亡を増やしていた。もしタモキシフェン治療期間の100% でパロキセチンを併用していたとすると、6.9人(4.3人-18.6人)に1人の割合で乳癌死亡が増えると推定された。


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