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エストロゲン受容体(ER)陽性早期乳がん:術後のタモキシフェン療法で15年死亡リスクを3分の1低減


術後5年間のタモキシフェン療法によりエストロゲン受容体(ER)陽性早期乳がん患者の再発と死亡率が有意に減少したことが国際共同研究グループのEarly Breast Cancer Trialist's Collaborative Group(EBCTCG)のメタアナリシスによって分かったと発表されました(Lancet 2011; 378: 771-784)。

今回発表したメタアナリシスは,約5年間にわたってタモキシフェン療法群と同療法を行わない群(非投与群)を比較検討した20件のランダム化比較試験(RCT)のデータを用いて行われています。解析対象は,これらのランダム化比較試験に参加した早期乳がん女性計2万1,457例で,同薬の服薬遵守率は約80%でした。

解析の結果,エストロゲン受容体(ER)陽性患者(1万645例)の再発リスクは非投与群に比べてタモキシフェン療法群で有意に低く,再発率比(RR)は術後4年までが0.53,5〜9年が0.68でした。ただし,10〜14年の再発率比0.97と低下度は小さい結果でした。また,タモキシフェンによる再発リスク低下は,エストロゲン受容体(ER)弱陽性患者でも有意であった(RR 0.67)。なお,エストロゲン受容体(ER)陽性患者におけるタモキシフェンによる再発リスクの低下は,プロゲステロン受容体の発現状況,年齢,リンパ節転移の有無,化学療法歴とは関係なく認められたようです。

さらに,タモキシフェン群では術後15年までの乳がんによる死亡率が,非投与群と比べて約3分の1低い結果でした。つまり、再発率はさほど変わらないが、なぜが死亡率は減少しているということですね。常識的にはタモキシフェン投与で再発乳癌の腫瘍の大きさが小さい傾向にあったと解釈できますが、実際はどうなのでしょう。

一方,エストロゲン受容体(ER)陰性の乳癌患者さんでは術後のタモキシフェン投与による乳がんの再発や死亡への影響はほとんど認められなかったということです。エストロゲン受容体(ER)陰性の乳癌患者さんに,タモキシフェンを投与したのでしょうか?疑問が残ります。

この論文ではタモキシフェンの副作用について、頻度は極めて低いものの致命的となりうる子宮がんや静脈血栓塞栓症などの副作用は主として55歳以上の女性で,若年女性に対する同薬の投与に伴うリスクは小さいとしています。エストロゲン受容体(ER)陽性の乳癌で卵巣機能が維持されている女性にとっては選択枝のうちの一つの薬剤として土俵際に残っているという感じでしょうか。


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